朝,五時起床。寝ぼけた目で目覚まし時計をチェックする。
あともう少し,あともう少しと二度寝を繰り返しているうち,気が付くと五時半。

 おいおいとあわてて飛び起き,寝る前に用意しておいたウェア(伝家の宝刀「DARUMA狼」Tシャツと数日前にゲットした黒スウェット地のハーフパンツ)に着替える。そして,手荷物用のバッグの中に次々と必要と思われるものをつっこんでいく。カメラ,ポケットティッシュ,読みかけの雑誌(?),そして、前日の夜,行けなくなったと悲痛な連絡をくれた相棒から注意された防寒用ジャージの上着。

 ふと、今回の旅は一人で行くことを思いだし,三脚を探し始めるがなかなか見つからず,(こういうときに限ってものが見つからないって事多いですよね)ようやく見つけて家を出たときには,五時五十分。さぁ、と自転車を駆け出し,駅へ向かってダァッシュ!

 丁度中間地点に当たる中学校で「流石に朝練してる学生はこの時期いないよなぁ」と考えているうち,ふとある考えが頭をかすめた。「受付のチケット持ったっけ?(ぉぃ)」考えるより先に体が自転車をUターンさせ,家の前に着くと速攻で部屋へ突入。土足で部屋に入り,窓際に置いてあったチケットを発見したときにはホントに安堵しました。そして、自 転車へ戻ったとき,「そうだ、レースに行くんだからライトとベルは必要ないな」と思った私はいきなりドライバーを取り出し,「はずしちゃえぇ〜(笑)」。はずしたライト&ベルは洗濯機の中につっこんで,再しゅっぱーつ。

 駅に到着し,時計を見ると六時八分。電車は十五分。やばい!急いで自転車をばらす。「うぉ〜」と叫びながら(というのはものの例えで(笑)輪行バッグの中に積め,駅の階段を駆け上がろうとした瞬間。「まもなくO番線に電車が参ります・・・」これを逃したら,次は二十七分。藤沢駅での乗換電車三十五分に間に合わない。階段を駆け上がり,切符を買って自動改札を突破し,(手回り品の切符は買えなかった)ホームへの階段を下りると、不思議な感じがした。ホームが異様に静かなのだ。おっかしいなぁと思いながら,反対側のホームを見ると,そこに停車中の電車が・・・。そして発車のベル。なんの不挙動も起こさず,黙々と定時を守って発車する電車。残された私と自転車。・・・むなしい。仕方なく反対側のホームへ行き,自転車とともにたたずむ私。十数分後,藤沢行きの電車に乗って藤沢駅に到着。

 朝早いせいか,土曜日にも関わらず電車は空いていた。JRのホームへ行き,熱海方面への電光掲示板で電車の時間を確認する。予定の電車に乗れなかったわけだから,どの程度の遅れが出るかが気になる。次の電車は五十五分。約十五分もある。仕方なく適当な位置に自転車を置き,キヨスクしか開いていないので,ポカリスエットで喉と胃を潤す。朝起きてから初めて胃の中に,物が入った感覚が心地よい。朝食は目的地の富士駅に着いてからでよいだろう。そう思い直し,ホームで電車を待つ。どこかの大会へ向かう中学生の一団。男女入り交じって皆スポーツバッグを片手にしている。ほかに道具らしい物を持っていない点を考えると陸上系の運動部っぽい感じがした。

 電車がホームへ滑り込み,車内にはいると同時に空席に荷物を置き,自転車をはじの方の移動する。荷物を網棚に上げ,熱海までの一時間あまりの旅を楽しむ。小田原を過ぎたあたりから,朝の海が見え始めとても気持ちいい。やはり、海も朝に限る。

 八時三分,熱海駅着。反対側のホームに五分発車の電車が来ている。自転車を運びつつ電車に乗り込む。路線駅の順番を確認し,「富士駅」が八駅ほどという事をチェック。峠の合 間を縫って進む電車はなにか、在らぬ冒険心をかき立てる。そうこうしているうちに,目的地到着。時間は九時ちょっと前。結構時間がかかってしまった。本来なら,八時半には着いている予定だったのだが・・・。有無を言わさず通常切符で改札を出ようとして,手回り品の切符がないことに気付き,購入。270円でした。

 さて、駅には着いたがここから会場まで直線距離で20km以上あるらしい。(しかも山道)とりあえず、駅周辺を確認してみる。非常識なことにコンビニが見えない。(私的な富士駅周辺てもっと発展した町って気がしていたので・・・)しかたなく、駅の売店で富士市の地図を見せて貰う。結構距離がありそうだ。売店のおじさんに相談すると,自転車で行くのはあまりお薦めしないとのこと。近くのコンビニを紹介して貰い,そこで、静岡県の地図を購入することにする。駅のロータリーを抜け,コンビニへの道をひた歩く。

 五分ほど歩くと商店街のアーケードのど真ん中にファミマが(笑)。店に入って地図を探す。「すいませーん。静岡の地図で見やすくて安いのあります?」間の抜けた質問だと思うが,レジのおねーちゃんに声を掛ける。なかなかの美人だ。やはり静岡県に美人が多いというのは本当だったのか(ホントかどうかの保証はしないけど(笑)。「これなんか1500円で、本タイプなんで見やすいと思いますよ」そういって、とってきてくれたのは「クイックマップル静岡県」。そして、中身も見ずに「あなたが選んでくれたのでしたら、きっとそれが一番良いのでしょう。じゃぁ 、それください」と、まじめな顔で(といってもサングラスとメットを被っていましたが)言った後,財布からお金を取り出し、購入。ゲットだぜぃ。おねーさんはちょっと照れていたようであるが,やはり綺麗である。このようなちょっとした洒落が分かってくれる方との出会いも旅の醍醐味である。うむ。

 その後,店を出る際に近くの都市銀行の場所を聞き,お金を一万円ほど引き出す。ここからは、自転車が資本とはいえ,知らぬ街での一人歩き。何事にもお金が資本である。駅前まで戻りロータリーにたむろしているタクシーの運ちゃんに目的地を告げ,料金の目安を聞いてみる。「八〇〇〇円」高い。当初の予定では三〇〇〇円程度を予想していたから倍以上である。ここでタクシーを使ったら一気に軍資金が底をついてしまう。

 迷った挙げ句,先ほど購入した地図を基に自転車で会場に向かうことにする。いそいそと、自転車を組み上げチェーンにオイルをさして,ルートを確認する。時計は九時四十五分。はたして、十一時四十五分の出走に間に合うのか,運命の勝負のスタートの合図はこうして切って落とされた。
98年8月22日(土) MTBフェスタ in 富士朝霧高原 by ランナーズ

第一章「起床〜最寄り駅」