さて、地図で確認する限り国道139号線をひたすら北上すれば,目的地の「朝霧ジャンボリーキャンプ場」へ到着可能である。大会用に用意した正装,DARUMA狼ロゴ入りヘルメット,DARUMA狼Tシャツ,黒のハーフパンツ,自転車用グローブ,そして、大会仕様MTB(ARGO01)で,気合いを引き締め自転車をこぎ出す。

 駅前バスロータリーは富士山への登山客でごった返していた。まぁ、天気は曇りではあるが,山の方を見上げると雲が消えているところがある。上に上がると日差しと紫外線が強そうだ。日焼け止めを忘れたのを少しだけ悔やむ。しかし,そうこういっていてもあと2時間弱で会場へ着かなくてはならない。感傷に浸っている暇はない。幸い,駅周辺はまだ海抜が低いせいか,フラットな路面が続く。メーターは35km/hを示している。なかなか出だしとしては好調だ。しかし、思っていたよりも駅周辺に工場が多い。海が近いせいもあるのだろうが,観光よりも重工業に主力をおいているのかもしれない。大きな煙突を持った工場は土曜日だというのにもくもくと煙を排出している。エコ愛好家の私としては気になるところだが,今回は無視。考えてはいけないと自分に言い聞かせる。

 視界が急に開けた。工場と住宅街を抜け大きな通りへと出たのだ。RV系の車がばしばし走っている。北に向かう方向に進路を変更し,しばらく行くと道路標識が出ていた。139号線。間違いない。この道路だ。今回の私の相手である。よっしゃぁ、ぜってぇ〜負けねぇ〜。グリップを握る手に力がみなぎる。こぐ。こぐ。ひたすらこぐ。道路に沿ってひた走る。

 しかし、どうも腰が痛い。サドルの位置があっていないのかと何度か止まって確認してみるが,サドル固定が緩かったり,高さがあっていないということはないようだ。そして、ついに痛みがひどくてペダルから足をおろしてしまった。背中にずっしり,荷物を積めたバッグの重さを感じる。そこで思い出したのだ。電車に乗るときに,バッグのショルダーベルトを緩めたことに・・・。それで、重くなったバッグが腰のあたりに重みを掛け,腰に痛みを感じさせていたのだ。いつもの自転車旅行なら,後輪部分にキャリアを付けてそこに荷物を積むため,腰の痛みなどとは無縁なのではあるが,今回は輪行ということで、荷物を極力減らした結果,バッグで荷物を運ぶ羽目になっていたのだ。というわけで、ショルダーベルトをめいっぱい締め上げて,背中にバッグが密着した状態にして自転車に乗る。腰への違和感が無くなった。アウトドアでは当たり前のことですが,自転車での遠出の際などでもこの点は気を付けるべきである。

 しばらく走ると,富士宮市に入ったことを知らせる標識を発見する。目的地まで確実に近づいていることを確認した直後,突如139号線という標識が消え,414号線という標識を目にする。不思議に思ってみたものの次の標識がまた414号線ならば,休憩,位置確認,時間確認のためにコンビニにピットインしようと考えているところへ、414号線の標識が現れた。やはり、どこかで道が変わったようである。ローソンの看板を見つけ,駐車場に自転車を止める。財布をとりだし,500mlの水のペットボトルを購入。それで、のどを潤しながら,地図を広げる。地図上で目的地までの距離の四分の一を消化したことを知る。と、現在位置を確認すると,319号線が途中で今までの道筋をはずれ,一本隣の道にはいっていることが分かった。軌道修正のコースを確認し,コンビニの時計を見る。十時十分。すでに、二十五分も経ってしまったことを確認し,予備の飲み物を買いに店内へと入る。先ほどは気にしなかったが,レジの女の子が妙におどおどしている。胸元のプレートに目を向けると,「研修生」の文字が光る。なんだか、お釣りを慎重に扱う彼女に「ありがとう。頑張ってね」と一声掛け,自転車へと戻った。やはり、年下っぽい女の子はかわいく見える。・・・危険な兆候かもしれない。

 颯爽とMTBにまたがり、ひた走る。139へはすぐに合流できた。そして,目指すは朝霧高原。徐々に勾配がついているのか,こぐ足に力が入る。交通事故の時に痛めた膝が再発しないかが少し心配だ。今日いっぱいもってくれればよいのだが・・・。信号待ちの間にも時間が刻々と過ぎていく。危険な考えがよぎる。もし、出走に間に合わなかったら・・・。せっかく,タクシー代の分を足で稼いで浮かせたのに,会場到着が間に合わなかったのでは意味が無くなってしまう。ここから、タクシーを使うか?しかし、町中を大きくはずれつつあるこの場所では空車のタクシーを探すのも一苦労だ。様々な考えを頭の中に詰め込みながら,走る。今の私にはそれ以外何もできないから・・・。心なしか,道路の道幅が広がってきた。おかしい。山へ向かっているのだから,道幅は狭くなるはずなのだが・・・。嫌な予感は当たった。自動車専用道路の標識だ。

 125cc以下の車両が通行禁止らしい。いったん停車し,大きな駐車場を持つ蕎麦やさんの駐車場に入る。もう一度、地図を見てルートと現在地を確認する。距離は約半分来た。しかし、ここから勾配がきつくなり,139に沿って走る道はない。もしこのまま走るなら,大きく迂回する必要が出てくる。時間はすでに残り後一時間を切っている。

 覚悟を決める。タクシーを呼ぼう。追加料金を取られようが,お金と時間を天秤に掛けたら,圧倒的に今は時間が大事だ。電話ボックスに入り,街のタウンページで、近くのタクシー会社を探す。しかし、地図の地名と住所の町内名が一致する物が見つからない。気持ちがどんどん焦る。一か八かの大勝負に望む気持ちで一番上に載っているタクシー会社に電話する。受付のおばさんが慣れた声で対応してくれる。「五分ほどで着くと思いますので」といって、電話は切られた。五分か。長いが,少し休憩を取って,自転車を車に乗るようにばらせば,すぐだろうと思って,まず,ローソンで買ってぬるくなった水のペットボトルを飲む。疲れているときは水が一番吸収しやすい気がする。たんに味がないので素直に喉を通るということもあるのかもしれない。飲み終わったところで車のクラクションが鳴った。駐車場利用の車に自転車がじゃまという事で鳴らされたのかと思い,誤ろうと思ってそちらを向くと,そこにタクシーがあった。早い。山のタクシー会社もやるものだと妙なことで感心する。

 タクシーのトランクに自転車を詰め込み,ふたをゴムで固定してもらって出発。さんざん悩ませられた139をすいすい北上する。タクシーの運ちゃんと軽口をたたきながら,会場への道をひた走る。しかーし、じゅ・渋滞。何もこんな時にしなくても良いのに・・・。結局会場に到着したのは,出走10分前,料金4000円。半額ですんだが,手痛い代償だ。これでは、ウォームアップも最終調整もできない。速攻で自転車を組み立て,有無を言わさず,受付にMTBごとつっこみ、参加書を提示する。(良い子はまねしてはいけんませんよ(笑)すでに、他の参加者はスタートラインについて,コースの説明を受けている。急いで、ゼッケンを付け,コースに自転車をつっこむ。スタートラインに出ると同時に出走のカウントが!。3、2、1、スタート!

98年8月22日(土) MTBフェスタ in 富士朝霧高原 by ランナーズ

第二章「最寄り駅〜フェスタ会場」