百十数名が同時にスタートを切る。もまれながらも、走りは調子がよい。やはり、20km以上の自転車でのウォームアップが効いているのかな。そうこう思っているうちにいきなり丸太の階段。それを上ると,石の敷き詰めてある坂だ。足場が取りにくい。何度の足首をひねる。「づきん。」痛みが足に走る。長いスロープのような坂を抜けると,今度は砂地が広がる。ホントにオフロードだなぁと感心しつつも,一度の走ったことのないコースに戸惑いながら走る自分。約半周分ほど来ただろうか。周りにいる参加者もだいぶばらけてきた。自分の走りやすい間隔で走ることが出来る。ほとんどの参加者が二、三十代の男性のようだ。女性の姿も見かけるが、数は圧倒的に少ない。コースの周りは草藪,林と変化に富んでいて見ながら走る物を飽きさせない。しかし、朝食も取らずに走り続けたつけは徐々に出てきた。

 一週目のランを終えてスタート/ゴール地点の自転車への乗り換えポイントに到着した頃には,だいぶへばっていた。DARUMA狼メットを被り,日除けのサングラスを付ける。サングラスを持つ手が心なしか震えている気がした。自転車にまたがって二週目に出発。途中まで一週目と同じコースを走ることになっているため,いきなりさっきの丸太の階段を自転車で駆け上がる。

 と、ここまでは格好良かったのだが,石の坂道で前が詰まってしまっていたためやむなく自転車を降りる。右側から抜けないこともないが,キケンだ。無理に抜きに走って,歩いている選手を巻き込んで転倒なんて事になったら洒落にならない。坂を途中まで上りきったところで,前が開けた。選手達が次々に自転車に再度載って走り始めたのである。こちらもあわてて追撃態勢を取る。しかし、慣れない路面での走行は確実に自転車のコントロールをさせにくくしている。車体がぶれる。後ろから追い越しを掛けようとしたり,追いかけてきている人にはそのたびに申し訳ないと重いながらも自分の未熟さを恥じる。何のためのレースなんだろう。練習をさぼったつけだ。自分のレースじゃないか。今年の夏はこれが、メインイベントじゃなかったのか?必死に自転車のハンドルグリップと,ブレーキレバーを握りしめながら自問自答する。

 前の自転車が転倒した。こちらもスピードを緩めて徐行しながら追い越しを掛ける。よく見ると転倒したのは女性だった。長い髪を後ろで束ねて吸水バッグを背中にしょっている。顔がサングラスに覆われているため,年齢などの特定は難しいが二十代の女性っぽい。家族でこのイベントに参加しているお母さんの雰囲気ではない。すぐに起きあがると彼女はまた走り出す。

 「負けられない。」本来,計測チップを靴に取り付けてのレースなので,他人とのバトルは全く関係ないのだが,ふとそう感じた。グリップを握り直す。スピードとバランスをうまく調節し,減速しすぎによる転倒とオーバースピードでのコーナーへの進入に注意する。モトクロスではないが,こういったオフロードを走行する場合,重心移動も重要なテクニックの一つである。チャンスは彼女に訪れた。芝生のヘアピンカーブを曲がるときに減速しすぎた私は,転倒をさけようと自転車から降りてしまった。その間に彼女が抜き去っていく。やられっぱなしなどDARUMA狼のプライドに掛けて認められることではないとストレートで距離を稼ぐ。お陰で三週目の自転車に突入する際には,一時期100m近く開いた差が背中の後ろ髪にてが届く程度の距離まで来ていた。だが、二週目の自転車まではなんとか周りとのペースや順位の奪い合い競争についていけたが,三週目にはグリップを握る手に震えが来た。やばい。なんとか挽回しなくては。そう感じながらも,三週目後半は前方の女性との距離が徐々に開いていく。

 体力が切れたところで,三週目のゴールが見える。自転車を所定の駐車スペースに止め,四週目の最後のランに突入。もうこの時には,意識がもうろうとしていた。足下に力が入らない。ついに歩いてしまう。息が上がっている。肩が苦しい。隣を男性の参加者が抜いていく。もう、先ほどの女性は見えない。かなり前を行っているようである。
 最後の力を振り絞って走る。走る。ただ、走る。ゴール直前,一人抜いた。自分自身との勝負とはいえ,やはり相手を抜くことで自分自身勝った気がする。ゴールの瞬間,体力の全てを使い果たし,倒れた。レスキュースタッフが近づいてきて,水を掛ける。よーやく意識を取り戻し,水分その他を補給し,寝転がる。全身が心臓になった気がするという感じを味わう。しばらくして、レース模様を中継していたDJがレースの結果を告げている。終わった。何とも言えない開放感に満たされている。「この瞬間のためにやって良かった。」心からそう思う。風になれた感覚を反芻する。空が青い。標高が高いせいか日差しが強い気がする。この夏一番高い場所に来た。そして、フード/ドリンクサービスで体力と体を回復した後,新たな目標を目指して私は旅立った。そう、旅はまだまだ半ばを過ぎたばかり,次なる目標は「白糸の滝」。

98年8月22日(土) MTBフェスタ in 富士朝霧高原 by ランナーズ

第三章「フェスタ会場〜大会本番」