体がだるい。全身に重りをつけているような痛みが残っている気がする。頭を振りながら,自転車にまたがり荷物を背負う。いざ、ゆかん!帰りの旅路へ!という感じで出発。周りに民家が全く見えない一本道の道路は,まるで日本を感じさせない。「やっほぉー」思わず叫んでしまいたくなる。凄いスピードだ。60km/hくらいは出ている。車体を制するのが精一杯で,先ほどまでのレースとは比べ物にならない風圧が体を襲う。長い坂を過ぎると,なだらかな自動車道をひたすら下る。軽く前輪にブレーキを掛けながらでも40km/hが平均時速として計測されている。あたりは自動車道とはいえ,自然の景観がかなり残っており,見ている者に清々しさを与える。気持ちよい。行きのタクシーの運ちゃんが教えてくれた交差点が見えてきた。ここから、脇道に入っていけば自動車専用道路を避けて下っていくことが可能らしい。

 「んっ?」よく見ると、交差点を曲がってすぐの所に「白糸の滝」への距離標識が出ている。距離は4km程度。しかも、帰りの道の途中にあるようだ。これは見て行くしかない。自転車でこんなに気持ちよく走れる上に,観光まで出来てラッキーなんて思っているうちにすぐに着いた。夏も終わりに近づいたというのに,家族連れを中心にしてかなりの観光客が来ている。大型バスも止まっている点を考えると,何かの団体さんなのかもしれない。しかし、どこに行っても観光客相手の商売は商魂逞しいことこの上ない。熾烈な客引き合戦が繰り広げられている。そんななかで、「白糸の滝」に向かう。だんだんひんやりしてきた。先ほどまで自転車をこぎまくって火照っていた体がじんわりとやさしく冷やされていく。「さー」幾筋もの白糸が岩肌から滝壺へと向けて落ちている。圧巻だ。「素晴らしい」言葉では表せない感激が押し寄せてくる。ふと気が付くと,滝を見つめたままぼけっと立っていた。心の中が無心になっていく。お坊さんの修行の局地というのはこういったものを言うのかもしれない。そう思いながら,その場を去ることにした。帰り際にお土産やさんで,「ぶたさんの置物」をGET!そして、巨峰アイスクリームを名残惜しそうに,後ろ髪引かれながら自転車へと乗り込む。

 走る。走る。ひた走る。139号線から414号線にはいってしばらく走った気がする。サイクルメーターを見るとすでに一時間以上経っていた。どうりで、腰が痛くなるわけだ。139号線に戻ったら休憩しようと思いつつ,気が付くといつのまにか富士宮市を出て,富士市に入っている。来るときに通った一度見た道に合流する。コンビニ発見!。自転車を駐車場につっこんで,メットを力無くぶら下げながら店内に突入。500mlのペットボトルで水を買い,ふと顔を上げると見たことのある顔があった。朝行ったローソンにいた研修生の女の子。「んっ?」ここはローソン。つまり、朝と同じ店に来たというわけだ。疲れ切っていて,なんとなくローソンを発見してインしたが,妙なつながりに思わず笑みが漏れる。それを見た女の子は自分のことを笑われたと思ったのか,不思議そうに頭を傾げる。店を出て水を補給しながら,バイト先の女の子にTEL。お土産の希望を聞いて,駅への道を飛ばす。途中、道に迷って地元のおばさんに道を聞いたりしたが,午後五時富士駅着。三脚を使った記念撮影をして今回の旅の幕を閉じた。自転車をばらしバッグに詰め込み,駅で蕎麦を食べ,お土産の追加を買ったのち電車へと乗り込む。途中,寝ながら過ごしたせいか思ったよりも出発駅に早く着いた。これが、今回の旅行の全行程である。

 今回の旅は色々な意味での深い想い出となり,人生訓となった。来年はDARUMA狼としてこの大会に参加しようと思う。否,大会参加と言うよりも一週間ほどの行程で自転車旅行がしたい。テントを張って,寝袋で寝る。そして、伝説と会いたい・・・。


98年8月22日(土) MTBフェスタ in 富士朝霧高原 by ランナーズ

第四章「大会〜白糸の滝〜そして フォーエバー」